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工学における安全と倫理(2):組織の意思決定と、個人の意志

author : A.Mizunoawa   [ 一般 ]
2018.05.02 Wednesday 11:00 | - | trackbacks(0) | 

みなさん、ご機嫌いかがお過ごしですか。応化4回生のA.Mizunoawaです。

前回「工学における安全と倫理」という授業について少し紹介させていただきましたが、実はその授業には毎週「ディスカッション」という時間が設けられており、30分ほど5,6人のグループごとに実際の事故事例について話し合うということをします。今回は実際の授業で扱ったテーマと議論した内容について、具体例を挙げて紹介してみたいと思います。

みなさんはチャレンジャー事故というものをご存知でしょうか? 1986年1月28日、フロリダのケネディ宇宙センターからチャレンジャー号というスペースシャトルが発射するという計画がありました。このスペースシャトルの構造には、高圧ガスが外部に漏れるのを防ぐためにO-ringと呼ばれるゴムチューブが二本、円筒に巻き付けられていました。二本目は予備であり、本来は一本目できちんとガスを食い止めるべきなのですが、1985年1月24日に発射されたシャトルを回収した製造会社の技術者ボジョリー氏は1本目のO-ringが破断しており2本目で辛うじて食い止められていることに気が付きます。その発射が行われた日はフロリダでは珍しい12℃という低気温を記録した日であり、ボジョリー氏はゴムが低温で弾性を失ったのが破断の原因であろうと結論付けました。

もちろん、ボジョリー氏は社内上層部やシャトルの所持者であるNASAに対して、抜本的な対策を図るよう進言を行います。しかし、NASAは当時シャトル計画の予算削減の危機に瀕しており、早急に打ち上げを成功させなければならなかったため、ボジョリー氏の提案に耳を貸そうとしませんでした。そして、そのような状態が1年間も続きます。

そうしてチャレンジャー号打ち上げ前夜になり、NASAと製造会社の間で電話会議が行われました。打ち上げ当日の予想気温は、未曽有の大寒波によりなんとマイナス8℃になるといいます。もちろん製造会社側は用意した資料を使ってチャレンジャー号の発射を延期するようNASAに強く要求しましたが、NASAは決して首を縦には振ろうとはしませんでした。あまつさえ「4人の幹部だけの投票で決める」と宣言し、最後まで延期を主張していた技術担当副社長に対し「そろそろ技術者の帽子を脱いで経営者の帽子を被りたまえ」と強い圧力をかけます。製造会社は売り上げの半分以上をNASAに依存していたため、今後の契約を考えればこれ以上はNASAに反対することなどできません。結局、4人全員が発射に賛成する署名にサインし、チャレンジャー号の打ち上げは決定されました。

その結果、チャレンジャー号は発射73秒後に爆発を起こし、乗っていた7名の宇宙飛行士は全員死亡という大惨事が起こってしまいます……。

このようなケーススタディに対して「あなたが技術担当副社長なら最終的に発射同意書にサインをするかどうか?」「技術担当副社長は結果的に発射同意書にサインをすべきではなかったことになるが、どうすれば会議の場で全員を説得して発射を延期することができたのか?」について話し合います。この授業を担当している先生曰く「他大ではサインしないという方が多数派だが、阪大はサインしてしまうという意見が毎年多い。良くも悪くも現実的というのか、なかなか校風が出ているように思う」ということで、僕らのクラスでも「サインする派51人・サインしない派32人」と例年通りの結果になりました。する派の意見としては「個人の意思がNASAに逆らうことはどうやってもできそうにない」「正常性バイアス(事件や事故など何らかの被害が予想される状況下であっても、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、自分は大丈夫だ、今回は大丈夫だと過小評価したりしてしまう人間の心理のこと)が働いてしまいそう」などがありました。一方、サインしない派の主張は「人命がかかっているので何としてでも発射を阻止しなければならない」「サインすることは間接的に宇宙飛行士を殺すことである」「技術者としての責務を全うしなければならない」などでした。

個人的には「絶対にサインはしない、するわけがない」という意見なので、サインをするというひとの方が多数派なのはかなり衝撃的だったのですが、みなさんはどう思われたでしょうか? なかなか考えさせられるテーマなんじゃないかなと僕は思います。「技術担当副社長は結果的に発射同意書にサインをすべきではなかったことになるが、どうすれば会議の場で全員を説得して発射を延期することができたのか?」についても、良ければ各々で考えてみてください。定まった答えは無いので、自由な発想で色々挙げてみましょう。

それでは、今回はこの辺で。See you again!

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